埼玉県虐待禁止条例改正案について、子どもの権利の視点から危惧を表明します


埼玉県虐待禁止条例改正案を提出した自民党埼玉県議団は、10月10日に条例改正案を取り下げました。
この条例改正案は10月4日に提出され、10月6日福祉保健医療委員会を賛成多数で通過、10月13日の本会議で可決・成立する見込みでした。しかし地域社会を監視社会にする恐れや、子どもの育ちを見守るという姿勢も欠けていることなど、条例案に対する批判の声が県内だけではなく全国から噴出しました。

子どもが安心して過ごせる環境を整備せずに、広範囲に禁止条項だけを設ける条例案が撤回されたことを評価します。

 

東京・生活者ネットワークは以下の通りステートメントを発表しました

埼玉県虐待禁止条例改正案について、子どもの権利の視点から危惧を表明します

子どもの権利の視点から危惧を表明します

2023.10.10

東京・生活者ネットワーク

 

2023年10月4日、埼玉県議会に県虐待禁止条例の改正案が自民党県議団のプロジェクトチームを中心として提出され、10月6日の福祉保健医療委員会を賛成多数で通過、10月13日に可決される見込みです。

同条例改正は、小学生相当の年齢の子どもを「住居その他の場所に残したまま外出することその他の放置」が「虐待」として禁止行為に位置づけられる内容になっています。

そもそもの提案理由は、送迎バスや自家用車への置き去りによる子どもの死亡事故が相次いだことを受けたものです。このような痛ましい事故を防ぐためにも、子どもが年齢に応じた適切な保護の下に置かれる必要があることを否定するものではありません。

海外においては、同様の内容を法で定めているところが少なからずあることも事実です。しかし、海外の法整備の背景には、日本とは異なる治安の状況や、子どもを安全に託せる支援体制を整備してきた経緯などがあります。

この条例改正では、安全対策の点検や子どもが安心して過ごせる居場所づくり等の対策をしないまま、養護者に対する広範な禁止規定の新設を急ぐ提案となっています。委員会での説明では、公園で子どもだけで遊ぶことや、小学校3年生以下だけでの登下校まで禁止行為に含むなど、子育ての現状から大きく乖離した提案となっています。

広範な禁止規定は、子どもの権利条約31条の遊び・余暇・レクリエーション等の権利侵害になりかねません。子どもにとっては、1人になってゆっくり考える時間や、休む時間、友だちと自由に遊ぶ時間も必要です。自らの力で安全を確認しながら社会で活動する力をつけていくために、年齢に応じた「保護」と「主体的な育ち」のバランスが重要なのです。

さらに、当事者である子どもや保護者・養護者の意見聴取や意見の反映を含む十分な検討が全く見えない本条例改正のプロセスは、*こども基本法11条の規定に明らかに違反するものです。

保護者や市民の不安や反発も強く、この条例改正に反対する署名活動は急速に賛同者が増え、さいたま市PTA協議会も独自の反対署名活動を行っています。

そのような状況で10月4日に改正案を提出、10月13日に可決し、来年4月1日から施行しようとする拙速な進め方に賛同することはできません。

東京・生活者ネットワークは、今回の条例改正案の取り下げも含め、まずは、子どもを含めた県民の意見を幅広く聴くための取り組みに着手すべきと考えます。

*こども基本法11条では、「国及び地方公共団体は、こども施策を策定し、実施し、及び評価するに当たっては、当該こども施策の対象となるこども又はこどもを養育する者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする」と定めている。