渋谷にある「イメージフォーラム」という100席ほどのミニシアターで上映中の「蟻の兵隊」を観ました。
これは、中国山西省で終戦を迎えたはずの日本軍部隊約2600人が、上官の命令でその後4年間も現地に残留し、中国国民党系の軍に合流、共産党軍を相手に戦ったという「日本軍山西省残留問題」を真正面から取り上げた作品です。
現在80歳になる主人公の奥村和一さんが所属していた部隊は、惨憺たる戦いの末、約550人が戦死、700人以上が捕虜となりました。「上官から、日本国のための戦いと聞かされていた。だから戦友たちは天皇陛下万歳と叫んで命を落とした」奥村さんがそう語るこの戦いは、実は、当時の軍司令官が自ら生き延びるために画策した“売軍行為”でした。それは長い抑留生活を経て帰国したとき、わかりました。奥村さんたち残留兵は、勝手に志願し戦争を続けたとみなされ、逃亡兵として扱われたからです。
奥村さんは「自分たちがなぜ残留させられたのか?真実が知りたい」と中国に行きます。当時の文書や証言を求めて膨大な書類を調べ、人を訪ね、歩きます。その執念の姿を、カメラは淡々と優しく追っていきます。監督の池谷薫さんの真摯な姿勢が観る者に伝わってくる映像です。
ついに奥村さんは証拠となる密約文書を発見し、戦後補償を求め国と争っている裁判の資料となるものを手に入れました。しかし、かつての戦場に立ったとき、心の中に閉じ込めてきたもう一つの記憶が蘇ります。“初年兵教育”と言われ、拒むことができず罪なき中国人を刺殺した…、食料もなく現地調達として行った略奪…。自分は加害者であり、その罪は生涯消えない。自分にできることは、胸に深く刻まれたその事実を確認することなのかもしれない。
後半、「戦争がなかったら、どうしていたと思いますか?」と問われた奥村さんは「平々凡々、商売人かなにかになって、暮らしていたでしょう…」遠くを見ながらポツリと答えました。瞬間、奥村さんの眼に映っているもの(重く、長い時間だろうか)が私の胸に迫り、涙が止まりませんでした。そうだ、平凡に生きるはずのたくさんの人間が被害者になり加害者となる。戦争はただ、ただそれだけではないか。
ぜひ皆さんも映画の中の奥村さんに会ってみてください。
広報委員/舩尾豊子
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